考察、半径マイナスの円、数学は何から自由なのか(No.029)
質問
半径マイナスの円は存在しないと言われたのですが何故ですか?
存在しない数が存在しているのに存在していない円は存在していないのですか?
回答
考えられないこととイメージできないことはまた少し違うとは思いますが、おそらく質問者さんの伝えたかったことは、
「半径が負の値となる"円"は想定できないのでしょうか、その理由は何故なのでしょう」
ということだと感じたので、そのていで推論を膨らませてみましょう。
まず言葉の整頓。
当然ですが通常思い描く円は、半径rが正の値で、
方程式x^2 + y^2 = r^2 と表される図形(曲線)を指します。
ここで、「上記の同じ表示式によって表され、r<0 となる曲線を"円"」として
これが何であるのか考えることにする。
と、
表現からすると、表示式が同じなので図形もrが正の値の際と区別がつきません。
事実代入したところで二乗によって負性は打ち消されてしまいます
このことから、方程式x^2 + y^2 = r^2 から言えるのは、rの正負の違いは区別がつけられない。
ある円の方程式が与えられたときその式のr が正負のどちらの数なのかは判別できない、と言えます。
なので「半径マイナスの円は存在しない」というより「半径マイナスでも式の表示や描かれる図形が全く変わらないから区別する意義が無い」という言明のが適切かなぁ。
その2
ですがそれではつまらないので今度は極形式(r,θ)で考えてみましょう。
平面上の点の位置を(x,y)ではなく半径rと基準軸からのなす角θの2変数で表そうというものですね。
例えば、半径3の円は「x^2 + y^2 = 9」と表されていたのが、
「r = 3」で事足ります。簡素!
そしてもしこれが「r = -3」って何を表すのか、と考えれば話が少し前進します。
負の動経なんてナンセンス!で切り捨てずに(-r,θ)が表す点の位置を極座標で考えると
これ(r, θ+π)に等しくなりまして、
つまり「負の半径によって表示される点」は、
「半径が正の値で考えていたときの点の位置を、180˚反転させた位置にある点」を指すことになります。
ということは、負の半径によって表示される点を360˚ぶん集めてできる曲線は、
描き始める出発点が180˚反転しているだけで正の半径によって表示される円と完全に一致するため、やっぱり半径の正負によって円に区別はできないのでした。
円の定義「ある点から等しい距離にある点の集合」という言明には暗に、反対位置にある(負の半径にあたる)点も含まれているようにも思え、上手い言い方だなぁと感じます。
以上、興味深い結果は得られませんでしたが、考察として少しでも参考になれば幸いです。
……余談。
- もし半径が虚数だったら。x^2 + y^2 = r^2 の右辺はマイナスになりますので今とちょい異なる議論となります。「虚円」という複素数を用いる図形の話になりますので検索すると面白いかも。
- 理論物理学には「負の質量」とか「虚数質量」についての議論もあります。「現実にはあり得ないイメージできない」でなく「もしこれこれを想定したらどんな風になるんだろう」と考える自由こそが数学の醍醐味だとも思っております。「エキゾチック物質」「タキオン」などで調べてみると興味深いかも。
参考
「負の半径」について良解説記事。
(回答ココマデ)