前回の記事(↓)の後半戦です。
pedantic-ganger.hatenablog.com
前回はtan置換(STEP1)を行い、式からタンジェントを取り除いたものの、式変形の次の方針に苦戦していたのでした。
今回はここから面白いテクニックを引用しつつ、回答の決着までつけようと頑張りました結果のご報告です。
回答
さて、前回積分の形状がベータ関数に近い形をしているものの、分母のためにうまく変換することが難しいという話をしました。
しかし、この分母の1+x²の形は高校数学でもよく見られた対称的なもので、この形からぜひ何か突破口を開けないかと思っていました。
STEP2, 挑戦的試行(丸ごと変換)
そこで少し変形します。分子分母にtをつくります。
= ∫ [0,1] t/(1+ t^2) √(t-t²) /t dt
各々中に入れ込んで、
= ∫ [0,1] 1/(t +1/t) √(1/t -1) dt
あーでもない、こーでもないと苦戦した挙句に、√(1/t -1) = s とルートを丸ごと置換するので進展がありました。
t = 1/(1+s^2) より、
dt = -2s/(1+s^2)^2 ds
t: 0 → 1
s: ∞ → 0 となりますので、
(与式)
= ∫ [∞,0] s/{(1+s^2) +1/(1+s^2)} (-2s)/(1+s^2)^2 ds
= 2∫ [0,∞] s^2 /{(s^4+2s^2+2)(s^2+1)} ds
分母の見た目が6次の恐ろしい式となりましたが、積の形ですので手がかりがありますね。
STEP3, BBB(部分分数分解)
被積分関数はパッと見、ゴツくはありますが、s^2のみで表されていると気づけば
s^2 = y と見做すと
y /{(y^2+2y+2)(y+1)}
という比較的BBBしやすい形だとわかります。
3元連立方程式を解けば、
y /{(y^2+2y+2)(y+1)}
= (y+2)/(y^2+2y+2) - 1/(y+1)
なので、yをs^2へと戻せば、
(与式)
= 2∫ [0,∞] {(s^2+2)/(s^4+2s^2+2) - 1/(1+ s^2)} ds
= 2∫ [0,∞] (s^2+2)/(s^4+2s^2+2) ds - 2∫ [0,∞] 1/(1+ s^2) ds
第2項目はそのまま、
2∫ [0,∞] 1/(1+ s^2) ds
= 2[Arctan(s)] [0,∞]
= 2(π/2 - 0)
= π
ですので、後は第1項目のみとなりました!
STEP4, fancy integral !
ここで、「Dr Peyam」さんがこの動画の5分10秒辺りから紹介されていたテクニックを援用します。
第1項目の
2∫ [0,∞] (s^2+2)/(s^4+2s^2+2) ds
を、この後の手品のために s = √√(2) u と下ごしらえします。2の四乗根ですね。
すると約分されて
= √√2 ∫ [0,∞] √2 (u^2 +√2)/(u^4 +√2 u^2 +1) du
= √(2√2) ∫ [0,∞] {(u^2 +1)+(√2 -1)}/(u^4 +√2 u^2 +1) du
= √ (2√2) { ∫ [0,∞] (u^2 +1)/(u^4 +√2 u^2 +1) du +(√2 -1) ∫ [0,∞] 1 /(u^4 +√2 u^2 +1) du }
これを、
= √ (2√2) { (イ) +(√2 -1) (ロ) }
と名づけて詳しく見ましょう。ここからが最高潮です。
まず(ロ)は、u = 1/w と反転変換します。
すると、(ロ)∫ [0,∞] 1 /(u^4 +√2 u^2 +1) du
= ∫ [∞,0] 1 /(w^(-4) +√2 w^(-2) +1) (-1/w^2) dw
= ∫ [0,∞] w^2 /(1 +√2 w^2 +w^4) dw
同形出現ですね!
2(ロ) = ∫ [0,∞] (u^2 +1)/(u^4 +√2 u^2 +1) du
= (イ)
つまり、(ロ) = 1/2 (イ)なので
√ (2√2) { (イ) +(√2 -1) (ロ) }
= √ (2√2) (イ) {1 +(√2 -1)/2 }
= √ (2√2) (√2 +1)/2 (イ)
さあ最後にいよいよ「fancy integral」と紹介されていたテクニックになります。
(イ)の分母分子をu^2で割って、
(イ)∫ [0,∞] (u^2 +1)/(u^4 +√2 u^2 +1) du
= ∫ [0,∞] (1+ 1/u^2)/(u^2 +1/u^2 +√2) du
分母のu^2 +1/u^2は
= (u - 1/u)^2 +2と平方完成します。
すると、u - 1/u = v と置換すれば
(1+ 1/u^2)du = dv
と見事に分子が現れました!
区間は、
u:0 → ∞
v:-∞ → ∞
したがって、(イ)
= ∫ [-∞,∞] 1/{v^2 +A} dv 、(ただし繁雑なのでA= 2+√2)
= 1/√ A [Arctan(v/√ A)] [-∞,∞]
= π/√A
1+x^2の逆数の公式
FINAL
さてこれで積分は全て処理し終えましたので、後は得られた値をまとめて
(与式)
= √ (2√2) (√2 +1)/2 π/√(2+√2) -π
= {√(1/2 + 1/√2 ) -1 }π
と、確かに値が得られました。
所感
なかなかの文量で手ごたえのある難問でしたが無事に示せてよかったです。
特殊関数を用いたり複素積分を経由したりなどあれこれ高尚なテクニックを使わずに、高校生でも振るえる技巧で解けたのがまた良ポイントかと。*1
一応、三角関数のワイエルシュトラス置換から虚数ありの1次分数までBBBする方針で最初は解いたのですが、
そちらからなら本問の値がcos(π/8)由来の値で得られたり、また一味違った面白みがありました。*2