衒学記鳥の日樹蝶

メイン記事が数学にシフトしてきたブログ。

定積分、log(sin(x))、まずは有名所から。

始めて参りましょう「積分対数シリーズ」。

本題

初回ですしメインテーマはlog(sin(x))の定積分の値から。

\int_0^{\frac{\pi}{2}}\log(\sin(x))\,dx

今後この積分対数シリーズでは、この定積分がしょっちゅう使わせてもらいますから、後々の布石としてもまずはこいつはしっかりと押さえておきましょう。

呼び方について

このシリーズの呼び方を「対数積分」としてしまうとそっちはまた別の特殊関数のことになってしまいますから、被りを避ける意味を込めて「積分対数シリーズ」と呼ばせてもらいます。*1

紛らわしい名前ですけども、そもそも用語って別の分野の意味被りまで考えてるとキリがないですし。「シリーズ」だって数学用語だったら「級数」ですし。

回答

まずは与式をIと名付けておきましょう。同形出現のお決まりパターンですね。

用いるのは三角関数相手にはもちろん「King Rule

昨今のTwitter積分クラスターや数学系YouTuber界隈でも流行りましたし、以前の記事でもちらっと紹介しておりますのでぜひご参考に、既習前提で話は進みます。

するとKing Ruleから、

I=\int_{\frac{\pi}{2}}^0 \log(\sin(\frac{\pi}{2}-t))\,(-dt)

=\int_0^{\frac{\pi}{2}}\log(\cos(t))\,dt

つまりlog(sin(x))もlog(cos(x))も同じなんですね。

そこで、積分変数をxに合わせておいて足し合わせます。

2I=\int_0^{\frac{\pi}{2}}\log(\sin(x))\,dx+\int_0^{\frac{\pi}{2}}\log(\cos(x))\,dx

=\int_0^{\frac{\pi}{2}}\left(\,\log(\sin(x))+\log(\cos(x))\,\right)\,dx

=\int_0^{\frac{\pi}{2}}\log(\sin(x)\cos(x))\,dx

=\int_0^{\frac{\pi}{2}} \log(\frac{2\sin(x)\cos(x)}{2})\,dx

=\int_0^{\frac{\pi}{2}} \log(\sin(2x))\,dx-\int_0^{\frac{\pi}{2}}\log(2)\,dx

第2項目は定数の積分ですから解けますね。

第1項目はsinの引数2xを改めuとでも置換すると、

2x=uですからdx=du/2

x:0→π/2 ; u:0→π なので、

=\frac{1}{2}\int_0^{\pi} \log(\sin(u))\,du-\frac{\pi}{2}\log(2)

積分区間を分けて、

=\frac{1}{2}\int_0^{\frac{\pi}{2}} \log(\sin(u))\,du+\frac{1}{2}\int_{\frac{\pi}{2}}^{\pi}\log(\sin(u))\,du-\frac{\pi}{2}\log(2)

どうでしょう、第1項目はIが出来ましたし第2項目は積分区間π/2だけズラしてあげましょうか。すると、

置換:u - π/2 = v ;

u:π/2→π ; v:0→π/2 なので、

=\frac{1}{2}I+\frac{1}{2}\int_0^{\frac{\pi}{2}}\log(\sin(v+{\frac{\pi}{2}}))\,dv-\frac{\pi}{2}\log(2)

=\frac{1}{2}I+\frac{1}{2}\int_0^{\frac{\pi}{2}}\log(\cos(v))\,dv-\frac{\pi}{2}\log(2)

はい、log(sin(x))もlog(cos(x))も同じなのでしたよね。

=\frac{1}{2}I+\frac{1}{2}I-\frac{\pi}{2}\log(2)

よって、

2I=I-\frac{\pi}{2}\log(2)

I=-\frac{\pi}{2}\log(2)

故に、

\int_0^{\frac{\pi}{2}}\log(\sin(x))\,dx=\int_0^{\frac{\pi}{2}}\log(\cos(x))\,dx=-\frac{\pi}{2}\log(2)

所感

ということで、対数と三角関数積分π/2とlog(2)の積が現れるのでした。

2の自然対数 - Wikipediaって言えば「メルカトル級数」(自然数の逆数の無限交代級数)ですし、

それを言ったら、π/4って「ライプニッツ級数」(奇数の逆数の無限交代級数)ですから、何とも不思議な繋がりが隠されていそうでソワソワします。*2

1-\frac{1}{2}+\frac{1}{3}-\frac{1}{4}+\frac{1}{5}-\frac{1}{6}+\dots=\log(2)

1-\frac{1}{3}+\frac{1}{5}-\frac{1}{7}+\frac{1}{9}-\frac{1}{11}+\dots=\frac{\pi}{4}

締め

第1回は対数と円周率が結びつく、log(sin)の定積分の紹介でした。

とはいえこの式は有名らしく、検索すればちらほら同様に解説しているページも見当たりますね。

(大御所参考書にも載っていたりとか何とか……?)

第2回はこの結果を使ってlog(tan(x))に挑みます。

それでは。(*'_'*)ノシ

参考

▼log(sin(x))のグラフや広義積分に言及していて良解説。

log(sinx)の積分【特殊な解法-1】 - うちーノート

▼「そもそも収束して値を持つのか?」をちゃんと述べるって大事。

広義積分3 ~log(sin x)の0からpai/2までの定積分の値 - 身勝手な主張

▼ダイログという特殊関数の視点から新たな扉

https://genkuroki.github.io/documents/twitter/2017-02-10%2520log(sin%2520%CE%B8)%E3%81%AE%E4%B8%8D%E5%AE%9A%E7%A9%8D%E5%88%86%E3%81%AF%E3%83%80%E3%82%A4%E3%83%AD%E3%82%B0%E3%81%A7%E6%9B%B8%E3%81%91%E3%82%8B.html

▼二つの級数についてまとめて述べられています。

メルカトル級数とライプニッツ級数 | 数学の偏差値を上げて合格を目指す

▼メルカトル級数の解法についてこちらも。

log2に収束する交代級数の証明 | 高校数学の美しい物語

*1:さっと調べただけですが「積分対数」の呼称はまだ出回っていないようですので一番名乗り上げさせていただきますね。

*2:メルカトル-ニュートン級数とグレゴリー-ライプニッツ級数とも。積分創始者のライバル同士が結びつく式と思えばロマンティックじゃありません?