衒学記鳥の日樹蝶

メイン記事が数学にシフトしてきたブログ。

難問解決、決着編(前半)、解説に適したルート選び

この記事は、以前の書きかけで放っていたコチラの難問の決着編です↓

pedantic-ganger.hatenablog.com

(エ?コンカイハホントダヨーホントホント)

改めて問いを掲示すると、

  \int_0^{\frac{π}{2}} x \cot(x) \log(\cot(x)) dx = \frac{π^3}{48}を示せ。

言うて今回もご多分に漏れずかなりのヘビー級の問題でしたから前後編くらいには記事を分割させてもらおうかと思ってます。

執筆モチベーション的にはリスクですが、可読性(式を追いかけるダルさ)は幾分ましにはなるんじゃないでしょうか。

 

ざっくりと5つに章立てすると、

STEP2 tan置換
STEP1 ファインマン・トリック
STEP3 微積分学の基本定理
STEP4 級数表現
FINAL バーゼル問題
 
ぐらいでお届けいたします。
それではどうぞ。

STEP2:tan置換

実は、昨年解決の糸口を見出した自分の解法の流れとはまたちがうのですが、前々回の

求む解法、積分 - 衒学記鳥の日樹蝶

こちらの記事のコメント欄にてhuxidさんから提示して頂いた流れの方が説明が自然できれいだな、と感じましたので大いに感謝をしつつ紹介させていただく所存です。ありがとうございます!

さてさて、

いつものように(与式)に名前をJと付けまして J= \int_0^{\frac{π}{2}} x \cot(x) \log(\cot(x)) \,dx としましょう。

初手の指し筋として、 \tan(x)= u と置換しましょう。

 x= \arctan(u) で、

\sec^2(x) \,dx =du となって、積分区間

x:0 → π/2

u:0 → ∞

ですから

 J=−∫_{0}^{∞}\frac{\arctan(u)\ln(u)}{u(1+u^2)} \,du となります。

 

STEP1 ファインマン・トリック

arctanが出てくれば、パラメータaを新たに導入し

 J(a)=−∫_{0}^{∞}\frac{\arctan(au)\ln(u)}{u(1+u^2)} \,du としましょう*1

鮮やかな積分の裏ワザとして知られる「ファインマン・トリック」です。

 

すると、見てもらえればすぐにわかることですが

 J(0) =0 ,\, J(1) = J ですね。

したがって、STEP3の先触れですが

 J =J(1) - J(0) =\int_0^1 J'(a) \,da と表されますから J'(a) =\frac{ \partial J }{ \partial a } を調べてみたくなります。

 

aで、arctan(au)を微分するということに注意を払って

 J'(a) = -∫_0^∞ \frac{\log(u)}{1+(au)^2} \frac{1}{1+u^2}\, du

log(u)は一旦わきに置いといて、部分分数分解をしてやると

 =\frac{1}{a^2-1} ∫_0^∞ \left\{ \frac{1}{1+u^2} -\frac{a^2}{1+(au)^2} \right\} \log(u)\, du

 

ここで、
第1項目は以前の紹介した反転対称の例題より0になります。
第2項目について、 au=tと置換しますと、

 \frac{1}{a^2-1} \left\{ \,0 -a^{2}∫_0^∞ \frac{\log(\frac{t}{a})}{1+t^2}\, \frac{dt}{a} \right\}

 =-\frac{a}{a^2-1} \left( ∫_0^∞ \frac{\log(t)}{1+t^2}\,dt -\log(a) ∫_0^∞ \frac{1}{1+t^2} \,dt \right)
したがって、 J'(a) =\frac{\pi}{2} \frac{a\log(a)}{a^2-1} というaの関数として、 J(a)導関数が導けました。

なので次はこの導関数から原始関数を得る段に入ります。

→決着編(後半)へつづく。

 

閑話休題、執筆ウラ話

実は昨年夏に解法を思いつくに至ったきっかけが、コチラの解説動画↓

www.youtube.com

にて類題を紹介されていたのを見つけたことから。

1:00頃から解説されている、 x =\arctan(\tan(x)) と書き替える手法をファインマン・トリックと合わせれば分母のtan(x)を約分して消去できるという、高等芸を使わせてもらって、当初は

 J(a) = ∫ _0^{\frac{π}{2}} \frac{\arctan(a \tan x)}{\tan x}  \log(\cot x) \,dx

と、初手の指し筋をこちらから切って計算を進めていったのでした。

のっけから重たいというか飛び道具すぎるよなー

鮮やかすぎて汎用的と言い難い説明になっちゃうなー

という懸念でしばし悩んでたのもあって、huxidさんの攻略ルートを選ばせてもらいました。

改めてコメント感謝です!

*1:「arctanxが出てくる積分は大抵変数aを設定してarctan(ax)とすると解けるかもしくは単純化できることが多い印象」という頼もしいコメントを頂きました